The discretion of a man deferreth his anger

; and it is his glory to pass over a transgression (Prov. 19:11 KJV) - このブログは基本的に画像処理やRTMなど技術に関することを書き連ねていきます。

世界一不要論の怖さ

事業仕分け】最先端科学も“敗北” 「スパコン世界一」を否定 ノーベル賞受賞の野依氏憤慨
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091113/stt0911131914010-n1.htm

費用対効果、というと、費用に見合った効果があるのか?という意味で捉える事が多いが、費用対効果はそもそも『見合った効果』というよりも、Max-Maxでの最適解を求める意味の方が本来高いはず。つまり、費用対効果というのは予算対事業数において『最善を取って行こう』ということに他ならない。

その人その人によって価値観が違うので、国益においての最善というのは非常に選択の難しいテーマではあるものの、恐らくは『その分野においての最善』というのを考える必要があるのではないか。すると、科学技術においては、『世界一』という状態がその最善の度合いを表していると言っても過言ではないと思う。

蓮舫参議の「一時的にトップを取るのは〜」発言は、その分野においての最善というものを著しく犯しているのではないか。もちろん、永続的にトップを取れるのであれば問題はないだろうが、科学技術、国際競争の場において、そんなことはなく、トップ集団にずっといるためには一時的にでもトップに居る気概がなければ無理な話。トップランナーとして、牽引することこそ、科学技術を推進している国として必要な施策のはずなのに、『2位ではだめなのか?』というモノ言いは、分かっていないとしか言えない。

『最善』の敵は『次善』、という事実がある。前提、定義がある程度問題にはなるが、それが整っている時に、人間は、かなりの努力や苦労が必要な最善よりは、安易に得られる次善を選びやすい。果たしてこれは良いことなのだろうか?特にMission Criticalな部分において、この選択は、その時点では良いかもしれないが、その後の選択に確実に響いてくる。次善を取ったばっかりに、次の最善の選択に加われない可能性もあるのだから。

『2位ではだめなのか?』。世界的に科学技術を牽引する立場を得たいというのであれば、『ダメです』としか言いようがない。どこかでイニシアティブを取っていかなければいけない。ソフト分野において既に遅れを取っていて、日本は『追従ではなく、独自性』を歩まなければいけない状態にあって、さらにハード分野で遅れが出るようになった場合、どうなるだろうか?。ハードが整っていればソフトが良くなる、という訳ではないが、その言葉をそのままひっくり返せば、ハード・ソフト共に良くなければ世界の科学技術や産業を牽引する立場になり得ないのである。

ハード・ソフトが共に良くなるためにはどうする必要があるのか?まさにそこが基礎研究であり、教育である部分だろう。日本の大学では、OSやコンパイラを作ることのできる人間は極端に少ない。詰まり、ソフトウエアでは、個々のアプリケーションは作れるが、システムは作れない、ということになる。また、日本の大学ではロボットが作れない。旋盤技術や、素材加工が出来ない(技術がない)のだ。教員が教えられないので、学生が勝手に旋盤を駆使して、様々なパーツを独自に開発出来ないのが日本の大学の現状なのである。

大規模にやる必要は無い。それこそ、大規模化等は産業に移行した時に、企業がやる仕事。しかし、その前段の、プロトタイプ等を作る部分は、大学に集まる人材が、スピードを持って行えなければ意味がない。そのためには、基礎研への投資、研究が行える人材への投資が必要ではないか。

スパコンは情報系において、ベースもベース。ロケット+衛星も国防を考えれば、本来は自衛隊の軍備よりも優先しなければならないもの。特に気象。気象の情報は、衛星から集められる情報や定点観測によって集められるものを、スパコン上でシミュレーションして予報を立て、それによって日本の農業をはじめ、産業全体が『天候』というわけのわからない、変化するものから守られるわけだ。台風や地震の多い、日本という国では何にも優先してやらなければいけない事業ではないのか?

その部分を削ろう、と言ってるのである。2位でもいい、と言ってるのである。あくまで、『経済的に厳しいから、今はやんない。』と言っているのである。何となく、今の学生たち、若い人たちが、夢に対してドライなのも、そもそもこの辺の40〜50の人間がこういうことに執着しない、『○○がないからやんない』的な話を刷り込まれているからのような気もしないでもない。まぁ、この部分は話が飛躍するが…いずれにしても、『スパコンはもっとこういう形で世界一を目指せる』という前向きの提言での削減ではなく、『世界一じゃなくていい』という後ろ向きの提言での削減は、日本を確実に没落させることになるだろうと思っている。